PBR1倍割れ対策とCRE戦略──不動産から始める企業価値向上

はじめに

2023年、東京証券取引所はプライム・スタンダード市場の上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」の実現を要請した。
これを受け、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの解消は、多くの上場企業にとって喫緊の経営課題となっている。
2026年4月7日、東京証券取引所の公表資料「資本コストや株価を意識した経営に関する4年目の取組み」によると、PBR1倍割れの企業は、プライムで27%(424社)、スタンダードで49%(766社)となっており、依然として1,190社で1倍を割り込んでいる。
出典:「資本コストや株価を意識した経営」に関する4年目の取組み
PBRが1倍を下回るということは、「事業を継続するより、今すぐ解散して資産を分配した方が株主にとって得だ」と市場がみなしている。
ここで見落とされがちなのが、不動産の存在である。
特に製造業や流通業、鉄道・不動産関連企業など、貸借対照表に多額の土地・建物を抱える企業ほど、不動産の扱い方がPBRに直接影響を与えている。
本稿では、不動産を軸にしたCRE(Corporate Real Estate)戦略の観点から、PBR1倍割れ対策を整理する。
PBR1倍割れが招く経営リスク

PBR1倍割れは、単に「株価が割安に評価されている」という話にとどまらない。
近年、資産価値と時価総額の乖離が大きい企業は、アクティビスト投資家の標的になりやすいという現実がある。
含み益の大きい不動産を保有しながら、その資産を有効活用できていない企業は、アクティビストから見れば「資本効率の改善余地が大きい企業」として映る。
実際、不動産の売却や自己株式取得、増配、あるいは経営陣交代を求める株主提案が行われる事例は増加傾向にある。
放置すれば、経営の主導権そのものを揺るがしかねない。
すなわちPBR1倍割れ対策は、株価対策であると同時に、経営防衛の観点からも避けて通れない課題なのである。
なぜ不動産がPBR低迷の要因になるのか

第一に、含み益と簿価のギャップが挙げられる。
長期保有の土地は取得原価で計上されているケースが多く、時価との乖離が大きいほど、資産の実態が財務諸表に反映されない。
市場はこの見えない価値を正しく評価できず、結果として株価が伸び悩む。
第二に、低ROA(総資産利益率)資産の滞留である。
本業とは直接関係のない遊休地、老朽化した社宅や保養所、稼働率の低い工場・倉庫などが貸借対照表に残っていると、総資産が膨らむ一方で利益を生まないため、ROA・ROEを押し下げる。
資本効率の低さは、投資家からの評価を下げる主要因の一つである。
第三に、情報開示の不足である。
保有不動産の含み益、利用状況、今後の活用方針が投資家に伝わっていないと、「見えないリスク」あるいは「未活用の価値」として、株価に織り込まれないまま放置されてしまう。
CRE戦略とは何か

CRE戦略とは、企業が保有・利用する不動産を経営資源の一つと捉え、事業戦略・財務戦略と連動させながら最適化していく取り組みである。
単なる「資産管理」ではなく、不動産を通じて企業価値そのものを高めることが目的である。
国土交通省もCRE戦略のガイドラインを公表しており、上場企業にとって不動産の可視化と最適配置は、もはや総務・管理部門だけの課題ではなく、経営レベルで取り組むべきテーマとなっている。
具体的な施策

1. 保有不動産の棚卸しと時価評価
まずは全保有不動産をリストアップし、時価・稼働状況・事業への貢献度を可視化することが出発点となる。
「本業に必要な不動産」と「そうでない不動産」を分類し、含み益の規模を経営陣・取締役会で共有することが、後続の意思決定の土台になる。
2. 遊休・非効率資産の売却またはセール&リースバック
遊休地や老朽施設は売却してキャッシュを生み、その資金で負債返済や自己株買いを行えばROA・ROEの改善につながる。
稼働中の拠点はセール&リースバックで同様の効果を狙えるが、2027年4月から強制適用される新リース会計基準により、リース資産・負債の計上が必要になるため、リースバックによる資産圧縮効果は今後薄れる見込みである。
ただし売却益や資金活用による改善効果自体は引き続き有効であり、この点を踏まえた実行が求められる。
3. J-REITや不動産ファンドの活用
自社での保有・管理にこだわらず、J-REITへの資産譲渡や、共同開発・証券化スキームを活用することで、不動産を「持つ経営」から「使う経営」へ転換できる。
これにより資本効率が高まり、調達した資金を成長投資や株主還元に回すことが可能になる。
4. 保有継続資産の高度活用
売却が難しい立地・戦略拠点については、遊休スペースの賃貸化、建て替えによる高度利用、複合開発など、資産価値を引き出す活用策を検討する。
特に都心一等地や駅前立地では、建て替え・再開発によって収益性を大きく引き上げられる余地がある。
5. 情報開示とIR強化
含み益の状況、CRE戦略の方針、資産効率化の進捗を統合報告書やIR説明会で積極的に開示することも重要だ。
投資家が不動産価値を正しく織り込めるようにすることで、株価への反映を後押しできる。
加えて、こうした開示はアクティビストに「付け入る隙」を与えないという意味でも、防御的な効果を持つ。
実行にあたってのポイント

CRE戦略は、総務・不動産部門だけで完結する話ではない。
財務部門、経営企画、IR部門が連携し、「不動産の最適化が資本効率・株価にどうつながるか」というストーリーを一貫して描くことが不可欠である。
また、一度の売却や開発で終わらせず、定期的なモニタリングと見直しのサイクルを組み込むことで、継続的な企業価値向上につなげることができる。
おわりに

PBR1倍割れの背景には、資本収益性の低さだけでなく、不動産という「見えにくい資産」の存在がある。
この状態を放置すれば、株価低迷にとどまらず、アクティビスト投資家からの介入という経営リスクにも直結しかねない。
保有不動産を可視化し、事業への貢献度に応じて売却・活用・開示を戦略的に組み合わせるCRE戦略は、資本市場からの評価を高め、経営の主導権を守るための実効性の高い施策である。
不動産を「ただ持っているだけの負担」ではなく、「積極的に活用して価値を生み出す資産」として捉え直すことが、PBR改善への確かな一歩となるだろう。
弊社では、これまでの豊富な知見に基づき、CREの資産評価や有効活用、さらには事業再構築に向けた戦略立案に関するご相談を随時承っております。
現在の保有資産に関する具体的な課題や、将来的な活用方針へのご関心がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
お客様の経営課題に寄り添い、最適な解決策をご提案させていただきます。
Writer's Profile

- 執筆者
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スターツコーポレートサービス株式会社
中川 貴雄(なかがわ たかお)
経歴-
2007年3月近畿大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。
同年4月スターツグループ入社。企業向けの不動産投資、売却のアドバイザリーに従事し、2020年9月に不動産鑑定士に登録。
2023年7月 東京都不動産鑑定士協会 災害支援対策委員・総務財務委員に、
2024年4月 東京都不動産鑑定士協会の推薦を受け、東京都武蔵野市の固定資産評価審査委員会委員に就任。
不動産のプロとして、数多くの企業の資産コンサルティングを手掛けている。
不動産鑑定士
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カテゴリ:
- 企業不動産戦略
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