2025.03.10

【NewsPicks掲載】給与アップより住む場所。「安定志向」世代が変える人材戦略の新常識

寮・社宅運用ノウハウthumbnail

社宅や社員寮と聞くと、やや昭和感のある制度というイメージを持つ人も多いかもしれない。
しかし近年、特に中堅〜大手企業において、人材戦略の観点から再び注目度が高まっている。
人材獲得競争が激化する中、社会経済の先行き不透明性による安定志向の高まりや、価値観・ライフスタイルの多様化により、
住宅関連制度の良し悪しは人材戦略の勝敗を分ける切り札ともなっているからだ。

人生で多くの時間を過ごす「住まい」の制度設計には、社員エンゲージメントの向上だけでなく、
組織開発、生産性向上、税制対策など様々な要素が複雑に絡み合う。
では、働き手と企業の双方でメリットを最大化し、人材定着につながる制度設計の秘訣とは?
建設・不動産を軸に事業を展開するスターツグループで、法人窓口を担う
スターツコーポレートサービスの辻広大氏に詳しく話を聞いた。
同社は約13万件の社宅管理実績を持ち、年間1000社以上の法人不動産の課題を解決してきた。

full

社宅・社員寮は今どうなっているのか?

まずは、これらの社員寮をご覧いただきたい。

full

上質なビジネスホテル並みの設備を備えた、ある企業の大規模独身寮。
共有部を多く設けることにより、組織の一体感が培われる場となっており、若手社員たちの育成にも活用されている



full

こちらもキッチンやラウンジなどのシェアスペースを多く設けた、ある企業の独身寮。
年次や部署を超えた交流が活発化したという。寮内にジムを備え、社員の健康づくりもサポートする



いずれも、狭くてむさくるしい……といった一般的な独身寮のイメージとは対極の、
ビジネスパーソンが帰寮後の時間を有意義に過ごすスタイリッシュな共同生活の場だ。
2組目の写真の事例では、スターツコーポレートサービスが移転とリニューアルを手掛けた。

「社員寮を学び・共創の場にしたいとのオーダーを頂き、
既存の物件をリノベーションする際に、コミュニケーションの活発化につながるシェアスペースを多く設けています。
テレワークスペースもあり、災害時には事業継続拠点にもなる」(辻氏)

実は近年、伊藤忠商事や三井物産、三菱UFJ銀行といった大手企業が続々と社員の住環境の改善に乗り出している。
背景にあるのは近年の採用難や離職率の増加、住宅価格の高騰だ。

安定志向の若者、離職する中堅。なぜ「第3の賃上げ」が必要か

労働人口の減少により人材争奪戦が厳しさを増す中、物価高騰や原材料費の上昇により、大手企業ですら、継続的な賃上げで優秀な人材をつなぎとめるのは難しくなっている。

そこで今、新たな選択肢として登場しているのが「第3の賃上げ」とも呼ばれる福利厚生の充実。
中でも企業側にも税制面でのメリットが大きい、借り上げ社宅や社員寮の充実を図る動きが活発化しているのだ。

「そもそも、単純な給与アップでは課税や社会保険料の負担も増えるため、手取りベースでの上昇効果は限定的です。
現物給付として扱われる社宅や社員寮なら、より実質的な待遇改善になる」(辻氏)

働き手世代の価値観やライフスタイルも変化している。
若手世代で特に顕著なのが、社会経済や国際情勢の不安定化による安定志向の急激な高まりだ。
2020年代を境に、就活生が企業を選ぶポイントは「やりたい仕事ができる」を「安定している」が上回った。

image

そして近年、多くの企業が離職率の増加で頭を悩ませている中堅世代。
この世代をつなぎとめるために欠かせない視点が、
人生の分岐点にさしかかりライフスタイルが多様化するタイミングでの適切なサポートだ。
結婚や子育てなど、ライフステージの変化によって支出がかさむ中、
住宅の補助により固定費を抑えることができるのは大きなメリットだ。

「会社の待遇を福利厚生も含めた『実質的なコスパ』で比較する若手世代も増えている。
第3の賃上げの中でも上乗せとなる額面が大きく、生活の質や人生にも影響する住宅関連制度の適切な見直しは、
社員エンゲージメント向上のためにも必須と言えます」(辻氏)

賃料相場高騰で、見直しが急務の住宅補助制度

また、賃料相場の右肩上がりの上昇も、住宅制度見直しの流れに拍車をかけている。

東京23区の住宅賃料は直近10年で約18.3%上昇した。
2024年は前年比で約5%の高騰と上昇トレンドが続いている。

住宅補助費を給与に上乗せして支給している企業や、借り上げ社宅を貸与している企業は、補助額や基準となる賃料を見直さなければ社員は都心に住めなくなり、不満の温床となってしまう。

image

社宅、社員寮が注目を集めているのは、こうした状況への対策としての一面も大きい。
「住宅補助として給与支給する場合、企業には増額分に対しても社会保険料の負担が生じますが、
借り上げ社宅・社員寮として現物支給するなら、税制上の優遇を受けることができる」(辻氏)

企業側は社員に効率的な還元を行うことができ、社員も通勤アクセスの良い住居に住める。
物価上昇時代において借り上げ社宅・社員寮制度は、特に中堅〜大手企業にとって有力な選択肢となっているのだ。

組織の活性化に効く「住」の力

さらに、社員寮・社宅は実利面からだけでなく、組織力強化の観点からも見過ごせない要素となっている。
高度成長期時代の社宅や社員寮は、肉体労働者や男性の総合職を念頭に設計され、
特に社員寮は働き手に睡眠や食事を提供する最低限の機能を備えた場所という位置づけだった。

しかし、産業構造の転換で頭脳労働が中心となり、リフレッシュやコミュニケーションの質が生産性を左右する時代へと変わり、
社員寮や近接する社宅は組織内でのコミュニティ形成の場としても注目されているという。
「オフの時間での会話がイノベーションの種になることも。
また、学生時代がほぼコロナ禍と重なりオンライン授業が中心だった世代にとっては、
寮や社宅が同期や先輩社員とのコミュニケーションを育む貴重な場になっているケースもあります」(辻氏)

full

同社が管理するある社員寮の管理者は、入居者一人ひとりの生活リズムや食事量を把握し、それぞれが寮に帰ってきたタイミングで温かい料理を食べられるよう準備しているという。
生活の基盤や心理的安全性を支える配慮は定量化が難しい領域ではあるが、帰属意識向上に好影響をもたらすことは想像に難くない。

こうした効果を前提に、コミュニティ形成を重視する企業は集合寮を、柔軟な働き方を推進する企業は個別借り上げを主軸に据えるなど、各社の経営戦略に応じた使い分けも進んでいるという。

image

その上で、社員それぞれがライフステージの変化に合った補助を受けられる柔軟な制度設計をすることが、
人材流出を防ぐ上では重要なポイントだ。

押さえておかないと逆効果。社宅・社員寮トレンド

ただし、住宅関連制度の整備によって社員エンゲージメントの向上や人材の定着といった成果を最大化するには、
現代の働き手のニーズを的確に捉えた設計が欠かせない。

何よりも重視すべきは立地だ。

実際、スターツコーポレートサービスの統計データによると、
通勤時間40分未満の物件は入居率87.6%を維持している一方、40分以上になると51.0%まで低下。
この「40分」が入居率が激変するラインだという。

同社が管理するある企業の社員寮では、実際に立地の見直しで良い効果が生まれている。
「以前は郊外のベッドタウンに立地し、通勤時間は75分。
その寮にも食堂やジムなど充実した設備がありましたが、仕事が長引くと寮に帰り着く頃には食堂は閉まっており
社員満足度が低い状態でした。

そこで、通勤時間が35分と大幅に短縮する都内に移転。
アクセスが改善するとともに、都心部は単身向けのスーパーや飲食店といった施設も充実している。
退寮率は年間30%から年間9%まで改善しました」(辻氏)

充実した設備も立地条件が整っていてこそ価値があるのだ。

続いて設備面。
社員満足度を左右する設備のニーズもしっかりと押さえておきたい。
近年の賃貸物件において、入居者に人気のある設備のランキングは以下の通り。

上位に並ぶWi-Fiや宅配ボックスは、現代のビジネスパーソンにとっても、もはや欠かせない設備だ。
「社宅・社員寮の共用部では、トレーニングルームや娯楽室など、帰宅後の時間を有意義に使うための設備の人気も高いです」(辻氏)

image

総務・人事部には「不動産部門」が必要

このように、社宅・社員寮制度の効果を最大化するには、
制度設計から物件の確保、運営面に至るまで、多岐にわたる対応が求められる。
しかし、これら全てを人事・総務部門が自前で担うのは現実的ではない。

「コーポレート部門の中で、不動産に関しては総務部や人事部が担うケースが多い。
しかし、本来は宅地建物取引士といった専門資格が必要な領域であるにもかかわらず、
専門人材を配置している企業は極めて少ないのが実情です」(辻氏)

さらに、総務・人事部門の業務は人的資本経営を重視するトレンドを受け、ここ数年で著しく拡大しているという。
働き方改革への対応、健康経営の推進、人材育成プログラムの刷新など、
新たな課題が次々と浮上する中、不動産管理にまで十分なリソースを割くことは難しい。
スターツコーポレートサービスの試算によると、1000件の社宅を管理し、2年に1回の転居が発生するケースでは、
年間約2400時間、月平均で約200時間分もの業務が発生するという。

full

同社はこうした課題に対し、企業ごとに専任のアカウントチームを配置して対応している。
定期的に面談を重ねて各社の経営・人事戦略に関する上流の課題を深く理解した上で、
プロの立場から企業価値向上につながる不動産戦略を企業と共に検討する。

「当社は専門部署不在の穴を埋める『企業の不動産担当』なのです。
普通の不動産会社は物件紹介のみになりがちですが、
私たちは経営課題を理解した上で、制度設計から物件選定、日々の運営までワンストップでサポートします」(辻氏)

獲得競争が激化する首都圏で物件を探す上でも、強力なデータベースを持つ。
全国3370店舗のネットワークによる個別借り上げ物件情報に加え、約1000社と密に接点を持つ同社内のネットワーク、
さらに新築計画情報も網羅し、自社物件を持たないフラットな視点から課題解決につながる物件を提案している。

「単なる福利厚生の枠を超え、人材の獲得・定着から組織力の強化、
さらには経営効率の改善まで、多面的な価値を生み出す住宅関連制度は重要な経営資源。
人材戦略の重要性が今後さらに高まっていく中、
スターツグループならではの総合力で企業価値向上につながる不動産活用を支援していきます」(辻氏)


撮影:髙山 透
デザイン:宮崎 麻美
執筆・編集:梅津 朋子
NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
2025-02-18 NewsPicks Brand Design



社員寮まとめ借り

Scroll

Search

まずは、お気軽に今のお困りごとを
お聞かせください。

スターツコーポレートサービスでは寮・社宅に関するどんな小さなお悩みでもお受けします。
長年培った寮・社宅業務のノウハウを駆使して、法人様に合った解決方法をご提案しますので、まずはご相談ください。

お問合せ・ご相談はこちら
Follow Banner