2026.02.03

2026年度税制改正大綱:不動産評価の見直しがもたらす「節税時代の終焉」

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毎年12月に発表される「税制改正大綱」は、政府・与党が翌年度以降の「税制のあり方」をまとめた基本方針です。
法的な拘束力を持つ「法律」そのものではありませんが、実務上は極めて重要です。
なぜなら、この大綱を元に法案が作成され、翌年春の国会で可決・成立することで、
4月から新制度が施行されるという確実性の高い「予告」だからです。

企業の不動産戦略や投資判断、資産承継において、税制の変化は成否を分ける決定打となります。
大綱が発表された段階で、いち早く改正の「方向性」を把握し、法案成立を待たずに専門家と対策を練り始めることこそが、
リスクを回避しチャンスを掴む鍵となります。

不動産鑑定

改正の背景:拡大する「時価」と「相続税評価額」の乖離

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日本の相続税評価において、不動産は「路線価(土地)」や「固定資産税評価額(建物)」によって算出されます。
これらは市場価格(時価)の概ね7割〜8割程度になるよう設定されていますが、近年の都市部の地価高騰や建築コストの上昇により、実際の市場価格との乖離が著しく拡大していました。

特に、借金をして賃貸物件を購入すると、建物の評価減(借家権割合の適用)などにより、資産価値を時価の3割〜4割程度まで圧縮できるケースも珍しくありません。
政府・与党は、こうした仕組みを悪用した「駆け込み的な節税」を課税の公平性を損なうものとし、今回の抜本的なルール化に踏み切りました。

貸付用不動産に対する「5年ルール」の導入

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今回の改正の目玉の一つが、貸付用不動産(賃貸住宅やオフィスビルなど)の評価に設けられた「所有期間5年」の制限です。

改正の内容
これまで、相続直前に不動産を購入しても、即座に路線価ベースでの評価が可能でした。
しかし、新制度では以下のルールが適用されます。

・取得から5年以内の相続・贈与: 「通常の取引価額(時価)」をベースに評価を行います。
 具体的には、「取得価額 × 地価変動率等 × 0.8」という計算式が検討されています。
・取得から5年超の保有: 5年を経過した後は、単に「路線価」や「固定資産税評価額」ベースの評価に戻るだけではありません。
 実物不動産ならではの各種評価減の特例(貸付用不動産の評価減・小規模宅地等)が適用可能となります。

影響と対策
この改正により、「亡くなる数ヶ月前に銀行借入でマンションを買って節税する」といった手法は封じられました。
購入価格から2割程度しか評価が下がらないため、購入時の諸経費(仲介手数料や不動産取得税など)を考慮すると、
短期間での節税メリットはほぼ消失します。
今後は、「相続まで少なくとも5年以上の期間を見据えた計画的な資産組み換え」が必須となります。

不動産小口化商品に対する「恒常的な時価評価」の衝撃

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貸付用不動産以上に厳しい措置が取られたのが、「不動産小口化商品(任意組合型・信託受益権型)」です。
1口100万円単位から都心の優良物件に投資できるこの商品は、近年の相続税対策の主流となっていましたが、
今回の改正でその前提が根底から覆されました。

なぜ不動産小口化商品が狙い撃ちされたのか
国税庁が公表した事例では、約3億7,500万円で購入した小口化商品の相続税評価額が約6,500万円(約83%減)となり、
現金を贈与した場合に比べて税額が95%以上も圧縮されたケースがありました。
このように、商品としての性質が「不動産」というより「金融商品(節税商品)」に近いとみなされ、厳しい規制の対象となりました。

改正後の評価ルール(2027年1月1日以降の相続・贈与)
不動産小口化商品については、通常の貸付用不動産のような「5年経過後の緩和」がありません。
取得時期を問わず、恒常的に「時価(通常の取引価額)」で評価されることになります。
改正前: 現物不動産と同様、路線価等により評価(時価の2割〜3割程度に圧縮可能)
改正後: 原則として「時価」で評価

これにより、相続税の「評価圧縮効果」を主目的としてこの商品を保有するメリットは事実上消失します。
今後は、純粋な「運用利回り」や「資産分散」を目的とした商品選びが求められることになります。

2026年度改正のその他の重要項目

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(1) 中小企業投資促進税制の拡充・延長
実体経済を支える中小企業への支援は継続・強化されます。
少額減価償却資産(即時償却)の対象が、現行の「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられます。
適用期限の3年間延長で2029年まで継続される見込みです。

特定生産性向上設備等投資促進税制では、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)に資する最新設備の導入に対し、
即時償却または最大7%の税額控除が認められる新制度が創設されました。
これらにより、企業としては、中長期的な設備投資計画が立てやすくなります。


(2)賃上げ促進税制の抜本的見直し:大企業は「廃止」、中堅は「厳格化」へ
2026年度税制改正大綱により、企業の人的資本投資を支えてきた「賃上げ促進税制」が大きな転換点を迎えます。

① 大企業向け措置の「前倒し廃止」
資本金1億円超かつ従業員2,000人超の大企業向け措置は、当初の期限(2027年3月末)を待たず2026年3月末をもって廃止されます。「賃上げは企業の当然の責務」との認識から、政策的な優遇フェーズは終了します。

② 中堅企業への「高いハードル」
従業員2,000人以下の中堅企業向けは1年延長されますが、減税要件が大幅に厳格化されます。
賃上げ率: 控除適用の最低基準が従来の3%から「4%以上」へ引き上げ。
上乗せ廃止: 教育訓練費の増加による控除率加算(最大10%分)は廃止。

今後は減税に頼る戦略から、新設の「特定生産性向上設備等投資促進税制」等の活用へシフトし、投資と賃上げのバランスを再構築する財務戦略が求められます。

まとめ:資産防衛の「王道」への回帰

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2026年度の税制改正は、不動産を活用した「安易なテクニックによる節税」に終止符を打つ内容となりました。
投資家や資産家が今後取るべきスタンスは、以下の3点に集約されます。

時間軸の確保: 不動産を活用するなら「5年」を最低単位とした長期保有を前提とする。
収益性の重視: 「節税できるから買う」のではなく、「節税できなくても持ちたい優良物件」を選ぶ。
出口戦略の再構築: 小口化商品などは節税効果が剥落した後の「時価」での売却可能性を再精査する。

今回の改正は、これまで不動産を活用した節税を行ってきた資産家や投資家の方々にとっては厳しい内容ですが、裏を返せば、
資産運用の本質である「収益力」や「資産価値の維持」に真剣に向き合う良い機会とも言えるでしょう。


【ご注意】
本記事で紹介している内容は、2025年12月に閣議決定された「令和8年度税制改正大綱」に基づいています。
これらは2026年4月以降の税制の指針を示すものであり、現時点で確定したものではありません。
今後の通常国会における関連法案の審議・成立を経て正式に決定されるため、細部の内容や施行時期が変更される可能性がある点にご留意ください。




【参考】

出典:財務省:令和8年度税制改正の大綱



Writer's Profile

執筆者
スターツコーポレートサービス株式会社
中川 貴雄(なかがわ たかお)

経歴

2007年3月近畿大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。
同年4月スターツグループ入社。企業向けの不動産投資、売却のアドバイザリーに従事し、2020年9月に不動産鑑定士に登録。
2023年7月 東京都不動産鑑定士協会 災害支援対策委員・総務財務委員に、
2024年4月 東京都不動産鑑定士協会の推薦を受け、東京都武蔵野市の固定資産評価審査委員会委員に就任。
不動産のプロとして、数多くの企業の資産コンサルティングを手掛けている。

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