2026.04.28

令和8年公示地価から読み解く不動産戦略:地価上昇局面における「保有資産の再評価」

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経営層の皆様は、自社が保有する不動産の「真の価値」を、激動する現在の経済情勢に照らして再評価されていますでしょうか。

令和8年3月17日、国土交通省より最新の地価公示が公表されました。
今回の結果は、多くの地域で上昇傾向が加速しているだけでなく、日本経済が「物価と賃金がともに上がる」ステージへ完全に移行したことを不動産価格の面から裏付けるものとなりました。

地価の上昇は、貸借対照表上の含み益を増大させますが、経営の観点からは「資本効率(ROE)の低下」や「保有コスト(固定資産税等)の増大」という課題を突きつけます。
特に、令和6年からのマイナス金利解除を経て、金利上昇が現実味を帯びる現在、遊休資産や低稼働資産を漫然と持ち続けることは、投資家やステークホルダーから「経営資源の停滞」とみなされるリスクを孕んでいます。

今こそ、公示地価という公的な「物差し」を起点に、保有資産のポートフォリオを抜本的に見直すべきタイミングです。

不動産鑑定

令和8年公示地価の全体概況:バブル後最大の上昇率

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令和8年の地価公示において、全用途の全国平均は前年比で2.8%上昇し、5年連続の上昇となりました。
特筆すべきは、上昇の幅が拡大し、バブル崩壊後の最大値を更新した点です。

かつての「都市部限定の上昇」とは異なり、現在は地方中核都市や、特定の産業集積地へと上昇の波が力強く波及しています。
背景には、旺盛なインバウンド需要、企業の国内投資回帰、そして全国的な再開発の進展があります。

地価公示制度とその役割について

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地価公示は、一般の土地取引の際に指標となるものとして、国土交通省が毎年1月1日時点の1㎡当たりの正常な価格を公示するものです。

土地はそれぞれ条件が異なるため、土地価格の正確な算定には専門的な知識が必要で、一般の方が算定するには難しい場合があります。
地価公示制度は、誰でも公示価格を参考に保有する土地のおおよその地価を推定できる仕組みであり、その価格を取引の目安とすることで、不当に安く売却したり、高値で購入したりするリスクを防ぐ役割を果たしています。

令和8月の地価公示の動向

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グラフは、平成31年から令和8年にかけての主要地域の商業地・住宅地における地価変動率の推移を示したものです。
地価は令和3年、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に需要が停滞しましたが、令和4年以降は上昇傾向が続いています。

このように、全国的に土地需要の回復が進み、とくに東京圏・大阪圏の都市部では地価の上昇幅の拡大が顕著に見られます。
一方、名古屋圏は、上昇幅の縮小が見られます。

変動率上位地点に見る「地価を動かす4つのキーワード」

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令和8年の商業地・住宅地における変動率上位地点を分析すると、現在の日本経済を象徴する4つのキーワードが浮かび上がります。

①「産業構造の変化」:半導体拠点の爆発的波及
北海道千歳市(ラピダス関連)や熊本県菊陽町・大津町(TSMC関連)の上昇は、令和8年に入り、周辺市町村へとさらに広がりを見せています。工場用地だけでなく、関連企業のオフィス需要、従業員の社宅・住宅需要が周辺の地価を20%〜30%超という驚異的な数字で押し上げています。


② 「グローバル・リゾート」:世界資本による買い上げ
長野県白馬村、北海道富良野市、沖縄県宮古島市などでは、円安背景もあり、海外富裕層や機関投資家による宿泊施設・別荘地への投資が止まりません。 国内の一般的な住宅需要とは切り離された「グローバル価格」が形成されており、観光地に近い保有資産は、従来の評価を遥かに上回る価値を有している可能性があります。


③ 「都市再開発の完遂と次なる計画」
東京都渋谷区、港区、あるいは福岡市(天神ビッグバン関連)などの都市部では、大規模プロジェクトの竣工が相次いでいます。
竣工による「街のブランド化」が完了した地点では地価が一段上のステージへ移行。
一方で、次の開発が予定されている周辺エリアへ需要がシフトする「玉突き現象」が起きています。


④ 「インフレ耐性と実需のミスマッチ」
都心部マンション価格の歴史的高騰を受け、需要は周辺の準近郊(千葉・埼玉・神奈川の主要駅)へとさらに拡散しました。
事業用不動産においても、賃料上昇を見越した投資が活発化しており、「現金の価値が目減りするインフレ下での現物資産」としての魅力が地価を支えています。

商業地・住宅地における変動率TOP10地点

<商業地>
いずれも、昨今の地価の動向を表す特徴的な地点です。

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(表1)令和8年 『商業地』の地価変動率TOP10


商業地の地価変動率TOP10の地点については、「半導体」・「インバウンド(訪日外国人観光客)」・「再開発」が地価を押し上げる強力な原動力となりました。

■ 北海道・千歳エリア(1位・2位・4位)
次世代半導体「ラピダス」の試作ライン稼働(2025年4月)を経て、いよいよ2027年の量産化に向けた投資が最終局面に入っています。工場に近い地点だけでなく、駅周辺の商業地もホテルやオフィス需要で爆発的に値上がりしています。
もはや国内の景気動向とは別次元の国家プロジェクト発の特需エリアとなっています。


■ 長野・リゾートエリア(3位)
長野県で唯一、商業地トップ10に食い込みました。
世界的なスノーリゾートとしての地位が確立され、外資系ホテルや高級レストランの出店意欲が極めて旺盛です。
住宅地ランキングでも県内地点がTOP10に入っており、エリア全体が国際投資の対象となっています。


■ 東京・渋谷エリア(5位)
桜丘町周辺を中心とした「100年に一度の再開発」の成果が数字に表れました。
新しい複合ビルが次々と竣工し、IT・スタートアップ企業の集積がさらに加速。街の構造そのものがアップデートされたことで、商業地としての価値が一段階引き上げられました。


■ 東京・台東区エリア(6位・7位・10位)
「インバウンド需要」を最も象徴するエリアです。
特に浅草1丁目周辺は、外国人観光客の増加に伴う店舗賃料の高騰が凄まじく、収益性が跳ね上がっています。
浅草寺周辺の「一等地」としての価値が、世界中の投資家から再認識された結果です。


■ 大阪・中央区エリア(8位)
道頓堀のど真ん中です。飲食需要の完全復活により、ミナミの商業地は全国でもトップクラスの安定した伸びを見せています。


■ 岐阜・高山エリア(9位)
飛騨高山の「古い町並」周辺です。
浅草と同様、「歴史的景観とインバウンド需要の相乗効果」が地価を押し上げる強力なエンジンとなっています。
世界的な観光ブランドとしての地位が確立されたことで、宿泊施設や店舗用地の取得競争が激化。
地方都市において、独自の文化資源がいかに高い資産価値を生み出すかを証明する結果となりました。



<住宅地>

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(表2)令和8年 『住宅地』の地価変動率TOP10

住宅地の地価変動率TOP10の地点については、「国際リゾート化(インバウンド)」・「都心の稀少性」・「周辺再開発の波及」が地価を押し上げる強力な原動力となりました。

■ スノーリゾートエリア(1位・2位・3位・5位)
【白馬・富良野エリア】
外資系デベロッパーによる高級コンドミニアム開発が住宅地価格を押し上げています。
特に白馬は、もともとの地価が割安だったこともあり、上昇率が際立っています。

【野沢温泉】
ニセコ・白馬に続く「第3の国際リゾート」としての地位を確立し、村全体のブランド力が地価を強烈に牽引しています。


■ 港区・湾岸周辺エリア(4位・7位・8位・ 9位・ 10位)
港区を中心に、隣接する品川区(天王洲周辺)を含むエリアがTOP10の半分を占めました。

【港区(港南・赤坂・芝浦)】
赤坂周辺の再開発事業や、リニア中央新幹線を見据えた品川・田町エリアのインフラ整備が期待感を高めています。

【品川区(東品川)】
東品川は、港区に近い利便性がありながら相対的に値頃感があったエリアですが、都心高騰の波が波及し、一気に上昇率上位へ食い込みました。


■ 文京区エリア(6位)
歴史的な文教地区でありながら、東京大学周辺のスタートアップ集積や、都心3区(千代田・中央・港)に隣接する利便性が評価されました。富裕層の「住環境重視」のニーズが集中しています。




経営層に求められる「不動産ポートフォリオ」の最適化

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地価が上昇している今、企業が取るべき戦略は、単なる「静観」ではありません。以下の3つの視点での再検討が急務です。

資産の「見える化」とROEの改善
地価が上がれば分母(自己資本)が膨らみ、何も対策を講じなければROE(自己資本利益率)は低下します。
PBR(株価純資産倍率)1倍割れ対策が叫ばれる中、時価評価された不動産の運用効率を最大化することは、上場・未上場を問わず経営の至上命題です。


「売却」か「高度利用」かの決断
【売却・賃貸】
本業とのシナジーが薄い遊休地や、維持管理コストが収益を上回る資産は、地価が高水準にある今こそ売却し、成長分野への再投資へ回すべきです。

【高度利用】
自社ビル等の場合、容積率の余剰を活かした建て替えや、他用途(シェアオフィス、物流拠点等)への転換により、キャッシュフローを最大化する道を探ります。


金利上昇への備え
令和8年現在、金利環境は明らかに変化しています。
借入を伴う不動産投資や保有については、金利上昇分を上回る収益性、あるいは資産価値の上昇が見込めるか、よりシビアな検証が求められます。

専門家とともに「資産の可能性」を検証する

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公示地価はあくまで「標準地」の評価であり、実際に保有する個別の土地には、それぞれの個別要因(接道、形状、法的規制、将来の開発計画)が存在します。

まずは「正確な時価の把握」が全てのスタートです。
公示価格の算定を担う不動産鑑定士は、その地域の微細な変化を誰よりも熟知しています。

公的な評価基準に基づいた鑑定を行うことで、対外的な説明責任を果たしつつ、経営判断の精度を高めることが可能です。

地価上昇時に見直す土地戦略

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地価が上昇している地域に資産を保有している場合、それは企業にとって見直しの好機となります。
単にそのまま保有し続けるのではなく、現在の用途が適切か、収益性をさらに高められないか、あるいは資産の組み換えによって企業価値を向上できないかといった観点から再検討することが重要です。

中長期的な経営戦略の一環として、土地の活用方針を見直すことが求められます。

保有する土地の資産価値を知り、その可能性を検証してみませんか?

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地価変動率TOP10を見ると、土地価格の変動は不動産の外部環境の急な変化に左右されており、なかなか事前に予測することができません。また不動産価格もここ数年で大きく変化しており、まずは「正確な資産価値を把握すること」がとても重要です。

地価公示の価格はあくまで目安であり、実際の資産評価には、より詳細で専門的な分析が必要です。
その際に心強いパートナーとなるのが、不動産鑑定士です。

不動産鑑定士は、公示地価の評価にも携わる専門家であり、信頼性の高い資産価値の判断が可能です。
専門家による鑑定をもとに、保有する土地が現在の用途で本当に価値を発揮しているのか、将来的に活かす余地があるのかを見極めることができます。
仮に有効活用が難しいと判断された場合は、売却による資金化と本業への再投資により、経営資源をより効果的に活用することも一つの戦略です。

保有する土地が「価値を生む資産」として機能しているか、あるいは「経営の足を引っ張る重荷」になっているか。
地価が力強く動いている今こそ、固定観念を捨てて資産価値の「見える化」に取り組むべき時です。

資産の活用状況に対する市場からの目は年々厳しくなっています。
将来の経営判断の精度を高めるためにも、まずは資産価値の「見える化」から始めてみませんか?


弊社では、これまでの豊富な知見に基づき、CREの資産評価や有効活用、さらには事業再構築に向けた戦略立案に関するご相談を随時承っております。
現在の保有資産に関する具体的な課題や、将来的な活用方針へのご関心がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
お客様の経営課題に寄り添い、最適な解決策をご提案させていただきます。



本記事におけるグラフ・表に関する出典

出典:国土交通省 令和8年「地価公示」



Writer's Profile

執筆者
スターツコーポレートサービス株式会社
中川 貴雄(なかがわ たかお)

経歴

2007年3月近畿大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。
同年4月スターツグループ入社。企業向けの不動産投資、売却のアドバイザリーに従事し、2020年9月に不動産鑑定士に登録。
2023年7月 東京都不動産鑑定士協会 災害支援対策委員・総務財務委員に、
2024年4月 東京都不動産鑑定士協会の推薦を受け、東京都武蔵野市の固定資産評価審査委員会委員に就任。
不動産のプロとして、数多くの企業の資産コンサルティングを手掛けている。

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