2025.06.13

【専門家が分析】令和7年度地価公示変動率TOP10 から導いた、不動産の活用戦略

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皆さんは、会社が保有する不動産の価値を、最新の情報に基づいて把握していらっしゃいますでしょうか?
令和7年3月19日に地価公示が公表され、多くの地域で地価の上昇傾向が続いていることが示されました。

一見、地価の上昇は保有資産の評価益につながるプラス要因と捉えられがちですが、実際には資産の運用効率や含み益の状況が、経営責任の観点から厳しく問われることになります。
具体的には、企業が遊休資産や低稼働の不動産を長期的に保有し続けることは、資本効率の低下やROE(自己資本利益率)の悪化につながり、株主や投資家からの批判を招くおそれがあります。また、特に含み益が大きい場合には、資産売却や再配置による企業価値向上の余地があると見なされ、アクティビスト投資家による経営改革要求の対象になりやすくなります。

したがって経営陣は、資産の時価評価と運用効率を的確に把握し、必要に応じて資産の売却や用途変更を含むポートフォリオの見直しを行うことで、経営資源の最適配分と企業価値の最大化を図る責務を負っています。
こうした背景から、財務・資産管理の観点から、保有する土地の適正評価と活用方針の定期的な見直しが欠かせません。
その際、判断の基準の一つとして活用できるのが「地価公示」です。

この記事では、当社在籍の不動産鑑定士が地価公示に関してプロとしてお伝えします。

不動産鑑定

地価公示制度とその役割について

地価公示は、一般の土地取引の際に指標となるものとして、国土交通省が毎年1月1日時点の1㎡当たりの正常な価格を公示するものです。 土地は一つひとつ条件が異なるため、土地の価格の正確な算定には専門的な知識が必要で、一般の方が算定するには難しい場合があります。

地価公示制度は、誰でも公示価格を参考に保有する土地のおおよその地価を推定できる仕組みであり、
その価格を取引の目安とすることで、不当に安く売却したり高値で購入したりするリスクを防ぐ役割を果たしています。

令和7月度の地価公示の動向

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出所:国土交通省 地価・不動産鑑定 「変動率及び平均価格の時系列推移表(令和7年地価公示)」


グラフは、平成31年度から令和7年度にかけての主要地域の商業地・住宅地におけるの地価変動率の推移を示したものです。
地価は令和3年度、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に需要が停滞しましたが、令和4年度以降は上昇傾向が続いています。 このように、全国的に土地需要の回復が進み、とくに東京圏・大阪圏の都市部では地価の上昇が顕著に見られます。

『商業地』の地価変動率

商業地・住宅地における各変動率の上位10地点をご紹介します。いずれも、昨今の地価の動向を表す特徴的な地点です。

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出所:国土交通省 土地・不動産・建設業「令和7年地価公示 28」



商業地の地価変動率が高かった上位10地点では、 「工場誘致による需要拡大」 「インバウンド(訪日外国人観光客)の増加」
「都市再開発の進展」「都心の住宅価格の高騰による波及」といった要因が、地価上昇の背景にあります。

■ 工場誘致による周辺需要の拡大
1位〜3位を占めた北海道千歳市では、半導体メーカー「ラピダス」の進出により、関連企業や労働者向けの施設需要が急増。
6位の熊本県菊陽町でも、世界的な半導体メーカー「TSMC」の工場建設が進められ、商業施設・サービス業の需要が増加しています。

■ インバウンドの増加による観光地の地価上昇
4位の長野県白馬村や8位の岐阜県高山市は、外国人観光客の増加によって注目を集めており、
宿泊・飲食施設や店舗の需要が急増。不動産投資も活発化しています。
また、7位と9位にランクインした東京都台東区・浅草エリアでは、土産物店や飲食店など観光関連商業施設の需要が高まり、
地価を押し上げました。

■ 都市再開発による中心地の価値上昇
5位・10位の東京都渋谷区では、渋谷駅周辺の大規模再開発が地価上昇を後押し。
新たな商業施設やオフィスの建設が進み、人の流れと投資が集中しています。

■ 都心の住宅価格の高騰と周辺地域への波及
都心部では住宅価格の高騰が続いており、相対的に価格の低い周辺商業エリアへの関心が高まっています。
こうした動きも、観光地や地方都市での商業地価上昇に波及的な影響を与えていると考えられます。

『住宅地』の地価変動率

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出所:国土交通省 土地・不動産・建設業「令和7年地価公示 26」




住宅地の地価変動率が高かった上位10地点については、「インバウンド(訪日外国人観光客)の増加」「工場誘致による住宅ニーズの増加」「再開発による都市機能の向上」「都心の住宅価格の高騰による波及」といった要因が、地価上昇の背景にあります。

■ インバウンドの増加と移住・別荘ニーズ
リゾートエリアでは、外国人観光客の増加に加え、移住やセカンドハウス需要が地価上昇をけん引しています。
上昇率1位の北海道富良野市、2位の長野県白馬村、3位の沖縄県宮古島市、6位の長野県野沢温泉村、7位・8位の沖縄県石垣市はいずれも、海外富裕層を中心とした別荘・コンドミニアムの需要や国内外からの移住志向が高まっている地域です。

■ 工場誘致による地域住宅需要の拡大
4位の北海道千歳市では、半導体メーカー「ラピダス」の進出により、工場関係者や関係企業の住宅需要が拡大。
また、5位の熊本県合志市も、近隣の菊陽町に立地する「TSMC」の工場建設に伴い、住宅需要が波及し地価を押し上げています。

■都市再開発による価値向上
9位の福岡県福岡市東区・箱崎エリアでは、九州大学跡地の再開発が進展。
事業者の決定や開発計画の具体化により、将来的な利便性や居住環境への期待感が地価上昇につながりました。

■ 都心の住宅価格の高騰と周辺地域への波及
10位の東京都目黒区青葉台では、都心部のマンション価格高騰の影響が周辺エリアにも波及。
相対的にアクセスの良い住宅地としての人気が高まり、地価が上昇しています。

地価上昇時に見直す土地戦略

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地価が上昇している地域に資産を保有している場合、それは企業にとって見直しの好機となります。
単にそのまま保有し続けるのではなく、現在の用途が適切か、収益性をさらに高められないか、あるいは資産の組み換えによって企業価値を向上できないかといった観点から再検討することが重要です。
中長期的な経営戦略の一環として、土地の活用方針を見直すことが求められます。

まとめ

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保有する土地の資産価値を知り、その可能性を検証してみませんか?


地価変動率TOP10から見るように、土地価格の変動は不動産の外部環境の急な変化に左右されており、なかなか事前に予測することができません。 また不動産価格もここ数年で大きく変化しており、まずは「正確な資産価値を把握すること」がとても重要です。

また、地価公示の価格はあくまで目安であり、実際の資産評価には、より詳細で専門的な分析が必要です。
その際に心強いパートナーとなるのが、不動産鑑定士です。鑑定士は、公示地価の評価にも携わる専門家であり、信頼性の高い資産価値の判断が可能です。 専門家による鑑定をもとに、保有する土地が現在の用途で本当に価値を発揮しているのか、将来的に活かす余地があるのかを見極めることができます。

仮に有効活用が難しいと判断される場合は、売却による資金化と本業への再投資により、経営資源をより効果的に活用することも一つの戦略です。 資産の活用状況に対する市場からの目は年々厳しくなっています。将来の経営判断の精度を高めるためにも、まずは資産価値の「見える化」から始めてみませんか?





当社には、事業用不動産の専門家である不動産鑑定士が在籍しております。
不動産事業を50年以上手掛けており、事業用不動産を専業としの取り扱いを長年続けてきた実績もありますので、
不動産でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。



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Writer's Profile

執筆者
スターツコーポレートサービス株式会社
中川 貴雄(なかがわ たかお)

経歴

2007年3月近畿大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。
同年4月スターツグループ入社。企業向けの不動産投資、売却のアドバイザリーに従事し、2020年9月に不動産鑑定士に登録。
2023年7月 東京都不動産鑑定士協会 災害支援対策委員・総務財務委員に、
2024年4月 東京都不動産鑑定士協会の推薦を受け、東京都武蔵野市の固定資産評価審査委員会委員に就任。
不動産のプロとして、数多くの企業の資産コンサルティングを手掛けている。

不動産鑑定士




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