2025.07.31

第52回(2025年4月) 不動産投資家調査にみる日本の不動産市場の現状と展望

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日本不動産研究所の不動産投資家調査は、投資家の動向や市場の利回り、投資意欲などを把握するための定期調査であり、
市場分析や戦略立案に活用されています。

2025年4月に実施された「第52回 不動産投資家調査」によりますと、日本の不動産投資市場は、
全体として安定した傾向を維持しながらも、一部のセクターでは利回りの低下や投資姿勢の慎重化といった変化が見られました。

サマリー
❍ 期待利回りは全体的に横ばいの傾向が継続しており、多くの投資家がピークと考えている可能性が高い。
 一方、「積極的に投資をする」スタンスを変えていない投資家が多く、価格水準は高止まりを維持しているものと考えられる。

❍ 今後の成長要因について、多くの回答者が「投資アセットの多様化」を上げており、
 冷凍冷蔵倉庫やデータセンター・研究施設など、投資対象となるアセットタイプの増加が進む可能性が高い。

❍ 今後のリスク要因については、9割以上の回答者が「金利上昇」を上げており、日本銀行の今後の金融政策に対して、
 警戒感が見られる。

不動産鑑定

主要セクターの期待利回りとその変化

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主要都市におけるAクラスビル(最上級グレードのオフィスビル)の期待利回りについては、
「東京・丸の内、大手町」で3.2%となり、5期連続で横ばいを維持しています。
他の東京エリアや政令指定都市でも同様に、期待利回りは横ばいの状態が続いております。

一方、賃貸住宅分野では、「東京・城南」のワンルームタイプが3.7%となり、4期ぶりに低下しました。
これにより、ファミリータイプの利回りを下回る結果となりました。
期待利回りが、長期的に横ばいであることは、「不動産価格が上限圏に達しつつある」と投資家が考えていることを
示唆している可能性があります。

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商業施設・物流施設・ホテルの動向

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商業施設では、「銀座」の都心型高級専門店の利回りが3.3%で横ばいを維持し、その他の都市では一部で低下傾向が見られました。郊外型ショッピングセンターについては、全地域で横ばいとなっており、一定の安定性が保たれております。

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物流施設(マルチテナント型)も安定しており、東京湾岸部の「東京(江東区)」では3期連続で3.8%、
東京内陸部の「東京(多摩地区)」では4.0%と、すべての地域で横ばいとなりました。

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ホテル分野では、「東京」が4.2%で横ばいを維持する一方、
「京都」「大阪」「福岡」「那覇」ではいずれも0.1ポイントの利回り低下が見られました。
上記4都市の利回り低下の主な要因は、訪日外国人(インバウンド)需要の急回復です。

訪日外国人は、コロナ禍前の2019年は約3,200万人でしたが、2024年は約3,700万人と過去最高を記録しました。
特に観光・宿泊需要が集中する人気の都市では、稼働率・客室単価が大幅に上昇していることが思料されます。
ビジネスホテルやシティホテルの今後の見通しについて、
投資家の40~50%が 「ややポジティブな状況」が2027年まで続くと見込んでいます。

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投資家の姿勢と今後の成長・リスク要因

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投資姿勢に関する調査では、「新規投資を積極的に行う」との回答が94%で、前回と同様に高い水準を維持しています。
一方で、「当面、新規投資を控える」との回答は3ポイント上昇し2期ぶりに5%、
「既存所有物件を売却する」との回答は6ポイント上昇し29%となり、一部の投資家では慎重な姿勢が見られました。(複数回答あり)

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今後の成長要因については、「投資アセットの多様化」や「市場参加者の多様化(海外投資家、公的年金、政府系ファンドなど)」
が多くの回答を集めています。 (回答数145社)

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反対に、リスク要因としては「金利の上昇」が最も多く129社(約90%)、
次いで「建築費や管理費などのコストの上昇」が45社(約31%)と続きます。(回答数143社)
住宅ローンや企業の借入に強く連動する長期金利(10年国債)は、2025年7月時点で約1.5%となっており、
前年同月の約1.0%から1年間で0.5%上昇しています。

日本銀行は2016年よりイールドカーブ・コントロール(以下、「YCC」)を導入し、長期金利(10年国債)を0%程度に誘導してきました。
2021年以降は上限を徐々に拡大し、2024年3月にYCCを実質終了しました。
今後、日本銀行は長期金利(10年国債)の水準について、これまでのような厳密な誘導は行わず、金利政策から距離を取り、
市場にある程度は任せつつも、必要であれば介入するという柔軟な姿勢を取ることが考えられます。

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金融政策の影響と投資家の見方

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また、日本銀行による一連の金融政策、特にマイナス金利政策の撤廃や政策金利の引き上げが不動産市場に与える影響についての特別アンケートでは、約66%の投資家が「影響はなく、変化は生じていない」と回答しました。
一方で、「やや萎縮し、市場は停滞の方向に移行しつつある」との回答も約33%を占め、一定の警戒感もうかがえました。

不動産投融資の需要が実際に減少したとする回答は少数でしたが、
貸出条件や出資者の姿勢が慎重になりつつあると感じる投資家も見られました。

一般的に、金利の上昇は借入コストの増大を招き、不動産需要の減退を通じて、不動産価格に下押し圧力を与える傾向があります。
2025年前半は、米国による関税政策(いわゆる「トランプ関税」)の影響により、金融市場は不安定な局面が続きましたが、
現在は徐々に回復傾向を示しています。
この関税政策に一定の方向性が見え始めたことから、日本銀行によるさらなる利上げの可能性が現実味を帯びてきました。

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ESG投資に対する期待の高まり

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ESG投資に関する特別アンケートでは、ESGに適した不動産に対する期待として
「不動産価値への影響」や「リーシングへの好影響」が多く挙げられました。
現在のところ、ESG対応物件とそれ以外での賃料や利回りに大きな差はないとされていますが、
10年後には「賃料が1~5%程度高くなる」との見方が過半数を占めています。

期待利回りについても、今後は低下(=価値の上昇)方向に進むとの予測が多数を占めました。
このように、金融環境の安定とともに投資家の積極的な姿勢は維持されつつも、
金利上昇やコスト増といった構造的なリスクを見据えた慎重な視点も求められています。
日本の不動産市場は確実に次のフェーズへと移行しており、投資家の関心も一層多角的かつ戦略的になってきていることが
浮き彫りとなった調査結果となっています。

ESG投資は、年金基金・上場企業・不動産ファンドを中心に日本で確実に定着してきており、
GPIF(年金積立金管理運用)の18兆円規模の投資、TCFD(気候関連財務情報開示)への賛同企業数世界最多、
サステナビリティ情報の開示は東証プライム企業の開示率97%など、数値面からもその浸透が裏付けられています。

CRE(企業不動産)の最適活用に向けた専門的支援の重要性

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日本不動産研究所が実施した「第52回 不動産投資家調査」では、金利上昇や市場構造の変化を背景に、
企業が保有する不動産(CRE:Corporate Real Estate)の活用を見直す動きが、今後さらに重要になることが示唆されています。
不動産鑑定では、保有資産の時価を的確に把握し、最も有効な利用方法を分析することが、
企業の経営判断を支えるうえでこれまで以上に求められています。

また、不動産コンサルティングの領域では、CRE戦略の見直しが進むなかで、売却や再開発、賃貸化など
多様な選択肢を踏まえた助言が重要となっています。
とくに、ESGへの対応や資産ポートフォリオの再構築といった流れの中で、CREを「単なる資産」ではなく
「経営資源」として位置づける動きが強まっています。

今後は、定量的な評価と戦略的な提案を組み合わせた、専門性の高い支援が不可欠となるでしょう。

弊社では、CREの資産評価や有効活用に関するご相談を随時承っております。
具体的な課題やご関心がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。



本記事におけるグラフ・表に関する出所、出典

出所:一般社団法人 日本不動産研究所

出典:第 52 回 「不動産投資家調査 」(2025 年 4 月現在)の調査結果 第 52 回 不動産投資家調査 特別アンケート(Ⅰ)



Writer's Profile

執筆者
スターツコーポレートサービス株式会社
中川 貴雄(なかがわ たかお)

経歴

2007年3月近畿大学大学院総合理工学研究科修士課程修了。
同年4月スターツグループ入社。企業向けの不動産投資、売却のアドバイザリーに従事し、2020年9月に不動産鑑定士に登録。
2023年7月 東京都不動産鑑定士協会 災害支援対策委員・総務財務委員に、
2024年4月 東京都不動産鑑定士協会の推薦を受け、東京都武蔵野市の固定資産評価審査委員会委員に就任。
不動産のプロとして、数多くの企業の資産コンサルティングを手掛けている。

不動産鑑定士




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